大判例

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大分地方裁判所 事件番号不詳 判決

主文

被告人を罰金参百円に処する

右罰金を完納せないときは金拾円を一日に換算したる期間被告人を労役場に留置する

但本裁判確定の日より壱年間右罰金刑の執行を猶予する

理由

被告人は大分市南王子町一丁目所在の日名子機械製作所々長として從業員十数名を使用し機械の製造販賣事業を営んでゐるものであるが昭和二十三年一月末頃当時失職して生活に困り給料收入に依り生活を維持しようと考へて居た秦秋生より從業員として雇入れ呉れ度き旨の申込を受けたのみならず親交ある木本義平よりも秦を雇ひ呉れとの申入があつたので秦の失職による生活苦にも同情し秦に給料を支拂つて雇入れる考になつたが雇入れ後の秦の勤怠振りを見た上で給料額を決める意図の下に履歴書等も要求せずその経歴を調査せずして同年二月二日秦秋生と給料額及雇傭期限を定めずして同人を雇入れる旨を約定して秦を雇入れ翌三日以降同人を郵便物の取扱等の庶務の仕事に從事せしめて使用し來り居たるところ其の後同月二十日朝迄の間に秦が事務室で股火鉢をして暖を取つたり事務所用の葉書を私用に使つたりするのを見た上更に同人雇入前同人が窃盗をして檢挙された経歴を有する事をも聞知したので秦の性行を不良と思惟したのみならず同人が他の從業員と共に日名子機械製作所労働組合を結成しようとして既に二日前の二月十八日工場内で同組合を結成し秦が其の組合長に就任してゐる事をも聞知したので秦の右性行不良と前記労働組合を結成せんとした事の両事由に依り同人を解雇せんことを決意し同二十日午前十時前後頃大分市王子町木本義平方で同人に対し秦を解雇するから其の旨同人に傳へて給料千円の傳達交付方を依賴したところ木本義平は曾て秦に自己の選挙事務長をして貰つたことがあるので解雇通告の明示をさけ同日夕方秦秋生の妻を介し秦に対し右千円を交付して工場の方は二三日休んで呉れと申し傳へたのみで解雇意思の通達をせなかつたが同月二十五日右製作所事務室で被告人が直接秦に対し解雇の通告を爲し以て前記両事由により秦を解雇したものである。

証拠を按ずるに判示事実中

(1)  被告人に於て秦秋生が他の從業員と共に日名子機械製作所労働組合を結成しようとして既に二日前の二月十八日工場内で同組合を結成し秦が其の組合長に就任してゐる事を聞知して之を解雇の一事由とした事実は

(イ)  証人寺司義夫の当公廷での自分は判示製作所の從業員であるが判示労働組合の結成の日時はよく記憶せぬけれどもその結成日の翌々日の朝九時か十時頃事務所で日名子所長に一昨日労働組合を從業員が結成し秦秋生が組合長になつた事を話したら日名子所長は組合は作つてもよいが待遇改善とかストに使ふから困ると申してゐたがそれから間もなくして後同所長が秦は臨時だから金を遣つてやめさせたと申してゐた右組合の結成が二月十八日であれば右の所長に話したのが二月二十日である旨の供述

(ロ)  証人森達夫の当公廷での自分は昭和二十三年二月二十一日日名子所長から秦は工場をもますからやめて貰ふたと聞いて秦の解雇を知つた旨の供述

(ハ)  証人秦秋生の当公廷での自分は日名子機械製作所從業員十数名と共に判示二月十八日に判示労働組合を結成し組合長になつたが二月十日頃より組合結成の準備をしてゐたのであつて二月二十日午前十時頃右組合の結成届書を所管廳に提出した旨の供述

(2)  右(1)の事実を除きたる其の余の判示事実は

(イ)  被告人の当公廷での関係部分に付判示同旨の供述

(ロ)  証人木本義平の当公廷での同人関係部分に付判示同旨の供述

(ハ)  証人秦秋生の当公廷での自分は判示事情により判示通りの経過を経て判示の通りの約定で日名子所長に雇はれたのであつて給料額や雇われの期限は決めてなかつたのである又自分は雇はるゝ前に判示の通り煙草の窃盜をしようとして大分警察署に檢挙せられて安部安治さんや木本義平さんの引受けで釈放された事がありその事は日名子所長に話さずに雇われたのである、日名子所長が自分を解雇した訳は自分が労働組合を結成しようとした事と右の窃盜経歴が判つた爲其の両方の事由によつて自分を解雇したものと現在思つてゐる旨の供述

(ニ)  証人安部安治、同竹田豊の当公廷での各自分等は秦秋生の判示窃盜の前歴を日名子所長に話した事がある旨の供述

(ホ)  被告人の当公廷での自分が秦の判示窃盜前歴を知つたのは判示二月二十日朝以前であつて盜癖ありと思つたので解雇したのである旨の供述

を綜合して之を認める。

被告人の判示所爲に付ては労働組合法第十一條第一項第三十三條第一項を適用し被告人を罰金三百円に処し不完納のときは刑法第十八條に從ひ主文第二項の通り労役場に留置す可きものとするが刑の執行を猶予すべき情状ありと認め刑法第二十五條に則り本裁判確定の日より一年間刑の執行を猶予す可きものとする。

一、工藤弁護人は秦は給料を定めざる臨時雇であるから労働組合法に所謂労働者に非ざる旨弁疏すれども判示認定の如く被告人と秦との間には互に秦が失職困窮の末被告人に使用されて食はんが爲に雇はれたのであつて雇入從業日を始期とし將來協定される金額を給料として授受し秦は其の給料によつて生活する考なる事の意思が暗默の間に合致してゐた事が明白であるから秦は労働組合法第三條に所謂労働者なりと解せなければならない從つて右弁疏は採用せない。

二、河野弁護人は秦は試の使用期間中の者であるから労働基準法第二十一條により無條件に解雇し得るものなれば本件は罪とならぬ旨主張するけれども判示認定の如く被告人と秦との間には將來協定の額による給料を支拂つて無期限に雇傭する旨の契約が成立してゐて試の使用に非ざる事が明白であるのみならず仮りに試の使用期間中の者であるとしても判示認定の如く二月二日の雇入れ日の翌三日より十四日を超えて引続き使用されてゐた者であるから二月二十日当時に於ては無條件解雇の権限もなかつたものと謂はねばならぬ從つて右主張も排斥する。

仍て主文の通り判決する

(裁判官 仲武雄)

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